「孤独の歌声」 天童荒太 新潮文庫
同じ著者の本は、随分前に「永遠の仔」を読んでいた。いろんな意味で印象が強烈で、当時は人の運命に深く引き込まれた記憶がある。どぎついという印象に似ていた。その時までの自分の運命と比較して考えていたと思う。同じような作品は続けて読めなかった。
かなり年月が経った今、久々にこの本を手に取った。実は、この作品の方が「永遠の仔」より早い作品だった。筆致がよく似ているのも当然だろう。作品では、登場人物が過去の過酷な人生経験を精神的に引きずりながら生きる。過去の悲劇が自分のせいだと責める気持ちと、仕方が無かったと慰める気持ちが錯綜する。そこに、他人との距離を感じて、いつしか孤独を求めるようになる。淋しさと隣り合わせのような秘めた心理が根底にある。
ー抜粋ー
「淋しさを感じさせる声は、数は少なくても珍しいものではありません。ただこの「淋しい」にも、ふたつ種類があると、アンケートによって発見され、音の質の上でも分けられたんです。ひとつは、淋しくてつらい、或いは悲しい、やりきれない、、、、。これが殆どです。残る、もうひとつ。これは、本当に数が少ないんですけど、、、、、淋しいんだけど慰められる、淋しいけれども励まされる、淋しいけど勇気が出る、、、」
「淋しいけど、慰められる、、、」
「何人もいないんですよ。いないんだけど、これ偶然なのかなんなのか、あとでへーって思いましたけど、ここにあてはまっている人は、とても多いんです、、、、歌手の人が」
「、、、、歌っている声だったんですか。」
「それじゃあ実験になりません。みんな普通に話している声を選んできたんですよ。たとえ外国人の声であっても、エディット・ピアフもジョン・レノンもキャロル・キングも、、、」
「彼の声は、そこにあてはまるのですか。」
「そう、孤独の歌声」
「孤独の歌声?」
作品のタイトルのヒントになる部分のように感じた。スト−リーの展開は切れ目なく続き、結末まで引き込まれるようだ。タケ